Next Commons lab奥大和

奈良県東部にある東吉野村は、「平成の名水百選」に選定された7つの滝「七滝八壺」や、近畿のマッターホルンといわれる高見山などで知られる、1700人ほどが住む村です。
でも、近年は違うことでも注目を集めています。
村は2010~2012年度に、移住者への空き家提供支援など人口増加に向けた施策を展開。
2015年にはシェアオフィス「OFFICE CAMP HIGASHIYOSHINO(オフィス キャンプ 東吉野)」がオープンし、若い人が遠方から訪れるスポットに。
この「OFFICE CAMP HIGASHIYOSHINO」を通じて移住した人は、2017年3月現在で20人にのぼります。

この村で、数少ない飲食店の一つとして賑わっているのが、橋本史郎さん・恵子さん夫妻が営む「食・夢工房 きのこの舘」です。
史郎さんが主にきのこの栽培・販売を、恵子さんがきのこのパック詰めや店舗での料理を担当しています。
今回「Next Commnos Lab 奥大和」では、橋本夫妻からきのこの栽培事業と飲食店の経営のノウハウを学び、継承する人材を募集します。

ー関西圏を中心に、東京からもお客が来る名店

夫妻が二人三脚できのこの生産・販売をスタートしたのは、1986年。
「それまでは扉や建具をつくる仕事をしていたのですが、県の試験場の人に教えてもらってきのこの栽培を始めました。
照明器具の明るさ、湿度などがきのこの生育に影響するので、試行錯誤を繰り返しましたね。
失敗を恐れて挑戦しない人もいるのでしょうけれど、『それでも私たちはやってみよう!』と」。

2000年、転機が訪れます。雑誌の取材で訪問された阿藤快さんに、史郎さんがしめじを焼いて出したところ、
「こんなにおいしいなら、飲食店にして出したらどうですか」と阿藤さんがおっしゃったのです。
他の取材でも、訪れる人々にきのこの味が好評で、店を開くことになりました。

「お店のオープン準備では、大工さんが朝から手伝ってくれたり、
石屋さんが水槽の土台を積んでつくってくれたりして、東吉野村の人たちが協力してくれました」。
こうして2002年にオープンしたお店は、囲炉裏が設置されたテーブルを囲んでお客が一つの輪のようになって座る造り。
橋本夫妻とお客、お客同士の交流が自然に生まれています。

現在は村内外から人が訪れ、関西圏を中心に、東京からもお客が来る名店に。
人気メニューは、「きのこご飯定食」(850円)、「きのこ鍋定食」(1300円)、「きのこフルコース」(2000円〜)。
きのこ料理のほか、地元産のジビエや川魚も提供していて、しめじとイノシシの肉が入った「特製照り焼き猪肉丼」(1200円)も人気です。

きのこは注文が入ってから収穫するので、新鮮さは抜群。珍しいのは、「しいたけ造り」(300円)です。
無農薬で育てた、採れたてのものだからこそ実現できるメニュー。
史郎さんが「生で食べたらおいしいやろうなぁ」と思いつき、茹でずに生でしょうが醤油と合わせて提供するようになったそうです。
香りが良くて旨みがあり、シンプルながらも力強い味わいです。

ー年間で8種類のきのこを栽培する

現在1年間で育てているのは、ぶなしめじを中心に、しいたけ、なめこ、ひらたけ、はたけしめじ、やまぶしたけ、まいたけ、くりたけの8種類。
いろいろな種類を試してこの8種に落ち着いたのではなく、「どんどん増えていっています」と史郎さんは笑います。

きのこの栽培には原木栽培、菌床栽培、瓶栽培の3つの方法があり、年間を通して育てることができます。ただし、原木まいたけとくりたけは、年中育てられるわけではないそうです。
どの方法でも、密閉ルームで殺菌灯をつけて無菌にしてから、きのこの種菌を入れます。これが「植菌」。
菌を入れてから培養させ、全体に菌が行き渡るのを3カ月ほど待ちます。

「植菌がうまいこといったか、いってないかは、1カ月したらだいたい分かります。うまくいっていないときはカビが生えてくるんです。
1回菌を植えたら3年使えるのですが、一回植えてきのこがまったく出なかったのに、翌年急に出てくることもあります。自然相手の仕事だと感じますね。
だからこそ、棚にある原木や菌床などの位置を毎日動かして、どれにも同じように光や湿気があたるように調整しています」。

原木のほだ木には東吉野村のクヌギとサクラの2つが使われ、
菌床では吉野杉のおがくずや広葉樹の原木を使用した自然の菌床が使われています。
メインであるぶなしめじは、瓶栽培です。植菌から3カ月ほど経ったものの、上の古い菌を取るとしめじが出てきて、21日目に収穫できます。

しいたけは原木栽培も菌床栽培も行っています。
しいたけだけの独特な育て方として、刺激を与えて発育を良くする工程があります。
いくつかの方法がありますが、史郎さんは大きなしゃもじのようなものでパンパンと叩いています。

「室内で和太鼓を叩くと、ドーンという響きが伝わって刺激になるという変わった方法もありますよ」。

ーきのこは、裏切らないところがおもしろい。

史郎さんにとって、きのこ栽培のおもしろさは何でしょうか。
「裏切らんところやな。例えばしめじは、生える準備をしてから、ちょうど21日したら必ず収穫できるんです。
かわいがって育てないと、雑菌が入ったら一晩でだめになってしまいますけどね。手をかければ応えてくれるんですよ」。

もう一つは、「おいしさ」だといいます。
栽培環境の室温管理はしているものの、土台になっている東吉野村の気温が低いので、きのこがじっくり大きくなります。
おいしいまま、熟成されたままで育つので、形が大きくなっても味は変わらないそうです。

量販店に卸していないような大きなきのこを食べられる「きのこの舘」は、
「こんなにおいしい食べ方がありますよ」とお客さんにきのこの魅力を提案できる場でもあります。
「お客さんと話をしながら、『お父さんお母さん、おいしかったわ』と言ってもらえるのがうれしいです」。

ー「おいしいきのこでお客さんを喜ばせたい」と思える人

近年、東吉野村には若い移住者が増えつつあり、活性化されているイメージがある一方で、課題もあります。
「高齢化率が53%で、どこも後継者不足です。若い人が遊びに来てくれるのはありがたいけれども、みなさん帰ってしまうんです。住んでほしいんですよね。
人がいないと、地域の産業が衰退してしまいます。人気店が閉店したケースもあり、後継者不足の解決が急務です」。

「Next Commons Lab奥大和」でも、橋本夫妻の事業を継承する人を募集します。起業ではなく、同店の後継者となることが条件です。
「自分の一代で終わるのはもったいないと思っています。3年かけて栽培のノウハウやお店の運営について修得し、
『これやったらいける』と思ってくれたなら、この事業を継承してください。手が必要であれば、継承後、私たちも手伝います。次の人につないでいきたいんです」。

栽培と飲食店の両方を一人で切り盛りするのは難しいため、夫婦など二人三脚で活動できる人が適しています。一方が料理好きであればなおいいでしょう。
「継承していただくときには、新しいメニューの考案など、お店の雰囲気と合うものだったら何をしても自由ですよ」と恵子さん。

史郎さんは「この村が好きになって、『おいしいきのこを育ててお客さんに喜んでほしい』と思ってもらえるなら誰でもけっこうです」と話します。

夫妻はきのこ栽培のビジネスと飲食店の経営で、子どもを3人育てました。そのうち2人は大学にも通ったそうです。
「お金儲けをするのは難しいけれど、贅沢はあまりせずにきのこと一生懸命向き合えば、食べていけますよ」と史郎さんは言います。

今までは設備投資に費用がかかっていましたが、
事業継承をすれば、その後にかかるのは種菌の購入や設備の補修くらいであることも利点の一つでしょう。

「きのこ栽培は自然が相手の仕事ですから、毎年出来が違います。私は今69歳ですから、70歳から3年教えたとしても73歳。
それからでもお手伝いはできますから、生業にしていくためのフォローはしていこうと思います。
栽培や飲食業に興味のある方、お待ちしています!」。

(文=小久保よしの 写真=都甲ユウタ 編集=赤司研介

profile

橋本史郎
1947年11月生まれ。1986年から奈良県吉野郡東吉野村鷲家の地で、夫婦二人三脚でキノコ類の生産・販売を開始。2000年からは、地元産のジビエや川魚、キノコの料理を提供している「食・夢工房 きのこの舘」を経営。そのかたわら、1993年から東吉野村議会議員を務めており、地域のために尽力。また、「きのこの舘」では、ヤマブシタケやハタケシメジなど8種類のキノコ類を吉野杉のおがくずや広葉樹の原木を使用した自然の菌床で育てており、生でも食べられる新鮮な採れたて無農薬キノコの栽培とキノコ料理で地域に密着し、安全安心な食材を提供している。

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