2017/07/28
11年前に東京から南三陸へ移住したという栗原さんご夫妻。週末には、そばカフェ風庵という蕎麦屋を古民家で営み、有機農業をしながら日々を過ごしています。また、夜にはジャズライブも行っているそうです。長年望んでいたというオーガニックと豊かな暮らしを体現されている素敵なお二人にお話しを伺いました。
東京には30年くらい住んでいて、いずれは海と山がある場所に移住して、自給自足がしたいなとずっと考えていたんです。東京のときに南三陸の方と仕事で付き合いがあってお手伝いをしていました。その繋がりで南三陸を訪れたことがきっかけです。
大変なことですか?それは、ないですねぇ。除草剤を使わないから雑草が生えてその作業が大変なくらいで(苦笑)草刈りも楽しんではやっていますけど、夏は特に大変ですね。でもそれくらいです。
そうですね。お店の素材は私たちが作ったものです。今栽培しているのは、トマト、ズッキーニ、とうもろこし、人参、それに小麦粉(南三陸の天然パン工房へ卸している)とお米で、自分たちもほとんど自給自足しています。作っている量は少ないですけど、お米も無農薬のササニシキです。最初は、農薬が届かないクマも出るような山奥で作っていたんですけど、大豊作の年に鹿に全部食べられちゃったりなんてこともありました。(笑)
ただ安全で美味しい合鴨を探すのがとても大変でした。岩手県にあるオーガニック農業をしている方と出会って、育ててもらう代わりにそれを全部買い取りますという直接契約を結びました。いわゆる循環型のやり方ですよね。相手も喜び私たちも喜ぶという。
そば粉は、今は喜多方の山都そば粉です。最初の方は自分たちで作っていたんですけど、この土地で作るそば粉の味は、ちょっと飽きる味なんです。それで他の土地のそば粉を食べてみるとそっちのほうが美味しくてね。これは困ったなぁって。ここ南三陸の温暖な土地は、そば粉の小麦粉には向いてなくて、贅沢なんでしょうけど、ここまで来てくださるお客さんのために他の土地のそば粉にたどり着きました。
音楽が大好きで、テレビはなくてもいいけど音楽はないとダメなんです。東京でよく通っていたジャズライブの店があって、昔そこでアルバイトをしていた南三陸出身の山内明美さん(現在のNPO東北開墾 理事)と知り合って、その方からのご縁でお店でライブをすることが決まったのが始まりです。その世界では有名な方が来てライブをやってくださったりするのですが、その音色には本当に感動します。
もともとは食からではなく石鹸から入ったんです。子供がオムツかぶれして合成洗剤の問題を知って、そこから牛乳の勉強、たべもの研究会の存在を知って、食の安全について考えたり勉強したりが始まったんです。
実は私たちは、あいコープとかパルシステムの前衛を手作りで作ってたんです。30年前、子供をおんぶしながら。自分たちで納得するものを食べたいし、周りの人にも食べて欲しい。大規模でなくても構わないから、安心して生産者と付き合えて顔が見える人から食料を購入するというシステムですね。
そうしてるうちに、お金を出せば安全なものは買えるけど、これは一体なんだろうとずーっと思うようになっちゃったの。なんか変だな?って。食べものに関してはいつまでも消費者ではいたくないなって。だから、自給自足は大変なんだけど、草とか(笑)、でも楽しみながらやっています。
必要最低限のお金は必要ですけど、利益を求めるだけでは企業に勤めるのと変わらないから、そうではなくて、生活を楽しもうっていう気分で来て欲しいですね。我々は失敗だらけだからいろんな話を聞かせてあげれるしね。(笑)
例えば農業だったら、半農半Xみたいな感じで。農業だけでは稼げないから、稼ぎぶちをどこかで持ちつつ農業をやったり、2重生活をしたり。誰にも何も言われず、そういうことが出来るのが南三陸の良いところだから、それを面白いと思える人であれば、ここが楽しめるんじゃないかと思います。
基本的にオーガニック農業は、単に農業上の問題ではなくて人間の有機的な繋がりだと思っているんです。自然に儲けもできつつ、同じ考えを持つものが助け合って共有しあいながら、ちょっと他にないものを創り出そうみたいなことをする。そういう人の繋がりが有機的にできていくのが有機農業だと思う。
震災後の南三陸の動きを見てて、南三陸では循環型社会が実現するんじゃないかと感じています。バイオ施設、液肥、有機農業、これらが揃っている地域というのは日本では珍しいです。それらがうまく消費できて回せる場所、なんらかの糧を得られる場所が地域の中にできると良いですね。
昔は、すべてが自給自足だった。その形に全部を戻そうというわけではないけども、それに近づいていきたい、エネルギーについてもそう思います。
田舎は、将来に向けた手つかずの宝庫だからね。あとはもうそこに住んでいる人がどう考えてどう利用するかなんだよね。
ここ南三陸はね、海と山が同時にあるでしょ。食という意味ではとても贅沢な土地だよね。ここに来てからは、知り合いがウニやアワビの開口だって言ってはそれを持ってきてくれたりする。それが当たり前の土地なんです。東京で食べたホヤはものすごく不味かったけど、あれはなんだったんだろうってね。(笑)こんな素晴らしいところはないですよ。
とにかくね、自分の思いをしっかり持ってきて欲しい。思いがあってそこに人が集まればお金もあとからついてきますしね、実現すると思います。私たちもそうでした。
(文・編集=佐々木久枝 宮城県出身・カナダ在住。2011年より執筆・編集・取材・翻訳に携わる。英仏話者。今後ますます多様化していく生き方・働き方に興味があり、ライターとして関わった情報が人々の役に立ってほしいという思いで執筆・編集に取り組んでいる。)