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2017/07/28

オーガニックからはじまる循環型社会に生きる。豊かな暮らしを実現する南三陸の人々〈1〉

Next Commons Lab南三陸

特別にオーガニック農業を目指そうっていうよりは、自然の流れでそこに至った 〜前編・阿部博之さん〜

その長年愛する大地のように、懐が深くとても温かい人柄の阿部博之さん。
今回は、専業農家として40年間農業に携わり、南三陸で大規模にオーガニック農業を取り入れた阿部さんにその想いを伺います。

オーガニック農業についてですが、阿部さんは2013年から無農薬でササニシキを作る挑戦もはじめています。
そのきっかけはなんだったんでしょうか?

一番の根っこはりんごです。青森にある奇跡のリンゴがきっかけです。それまでは、綺麗な野菜や果物を作りたければ、なんの躊躇もなく農薬を使うのが当然だと思っていた。でもこういう人がいるんだなと知って、味もとても美味しかったことから興味があったんです。
そして、その何年後かに震災が起こった。震災後にカメムシの大量被害がでて、そのために農薬を使った。実際、農薬を使った土地と使わない土地では仕上がりに歴然の差があって。
でもそれを使うたびにカメムシもその農薬に強くなってきて、はじめは農薬1回だったのが年々増えていく。そのうち自分の顧客にそのお米を売ることに抵抗感が出てきた。農薬は認められたものだから隠す必要はないけど、でも何か違うんじゃないか。そういうことを考え始めて、この状況をどうにかしなければと思ったときに、昔食べた無農薬で作られた奇跡のリンゴが心によぎってね。
そこから、昭和38年に作られていた無農薬ササニシキのことを知って、あんなに美味しかったのになぜ淘汰されてしまったのかを聞きに行った。無農薬だと米が病気になりやすいという原因はあるけども、それよりもその当時の近代ノウハウがマッチしなかったのかなと感じたんだよね。だからいまなら、それに挑戦できるのではと思ったんです。

普通の農業をオーガニックに変えることで、どのような変化がありましたか?

自己満足かもしれないですけど、自然に対して負荷をかけていないなという実感があります。水を見ても虫がいっぱいいるし、雑草も生える。その雑草との戦いにヒイヒイしてしまう部分はあるけども、でもあの農薬一つで、これらが一気に除去できてしまうというのは便利である反面、怖いなと思った。
銀杏浮苔という絶滅危惧種があるんだけども、東京辺りのペットショップでは高値で売られていたりする、そういうのが復活してきてね。自然にその辺にあるんだ。これ売った方が米作るより儲かるんじゃね?と冗談を言いながら作業してるんだけども(笑)
だからね、そういう環境の中で米を作るんだから、もちろん美味しい米ができるはずだよねと思うんですよ。

今年南三陸では、持続可能な農業の仕組みを作る「オーガニック 3.0」プロジェクトがスタートし、
阿部さんもプロジェクトパートナーとして参画していますが、農業家を目指す方にどのようなことを伝えていきたいですか?

オーガニック農業ってやっぱりハードルが高いと思うんです。自分だけが食べるという範囲だったらそんなに難しくない、でも生活をそれで立てるとなると大変です。田んぼだけでは難しいから、じゃあ他にどうすればいいのか。そうやっていく努力や覚悟が必要だと思う。
でも今の時代、有機野菜などを宅配して商売している人もいっぱいいるし、そういうやり方もある。例えば、生活が賄える分だけ農業する。俺もこれまでそういうやり方をしてきたし、それでもいいと思う。巨大な産業にならなくていいんじゃないかと。俺はそういう人を応援したい。オーガニックはすごく大変な時期が何年もある。でもいつか日の目を見る日がくると思っている。

このオーガニック3.0の動きを進めるための「いのちの循環」という大切なファクターとして、
バイオガスプラントから出る液体肥料をつかった農業があります。
阿部さんはそちらも取り組まれているそうですが、使ってみてどうですか?

液体肥料は、今もまだいろんな声がある。良いという人もいれば、中途半端だという人もいる。それでも「辞めました」という声はまだ聞こえてこない。役場や農協がサポートしてくれるから続けやすいし、俺も今年は液体肥料だけで田んぼやってみたけど、結構いいなと思っているよ。
トウキにも去年追肥で使ったけど、即効性もあるしとても効果があったから、これからも使おうかなと思っている。液体肥料はここ地元で作られている。循環の肥料だという点で利用すべきと思っているんだ。
「液体肥料で作られた野菜」という、まさに循環から生まれた野菜をこの南三陸に新しく来る人にも作ってもらいたい。地元にいる我々が、先に試してリスクがないよということを実証しておくから、興味がある人には安心して挑戦してほしい。

最後に、阿部さんが行っている恩送りファーム南三陸農工房という体験交流農園や
CSAコミュニティサービスについても聞かせてください。

南三陸農工房の方は、開始した当初は助成金などを利用して運営していたけども、そのあとの自立が難しい。自立するには、売り上げが必要だよね。でも、そうすると他の生産法人と何にも変わらなくなってしまうから、それは俺にとって違和感がある。
この農工房で作ったネギが南三陸でブランドとなったから、それを一つの柱として活動していきたい。それから、無農薬で作ったトウキに関してもすでに納品が決まっていて、そういう医療に関わるものを作っている、という実績を南三陸で育ていきたいんだよね。この農工房は、いろいろなことを実験的に試してみる場としてありたいなと思っている。
CSAの方は紆余曲折あって、今年から年間1万8千円で会員になった人へ南三陸から米2キロと海産・農産物を年に3回届けることになった。南三陸をサポートしたいという思いがある人が会員になってくれる感じだね。年間費から仲介者に手数料4割を納めないといけなくて、そのせいで会費が高くなっているから、その問題を改善していきたい。
今後はもっとたくさんの人に手軽に、そして実際に汗水流して手伝ってくれた人にも、できた米や農産物を食べてもらえるような仕組みを作っていきたいなと思っている。
できる範囲で肩の力を抜いてオーガニック農業には取り組んでほしい。
その中で少しでも収益がでて、それを周りが知って、俺も試してみようかなという方向で広がっていってくれることが一つの願いでもあるんです。

(文・編集=佐々木久枝 宮城県出身・カナダ在住。2011年より執筆・編集・取材・翻訳に携わる。英仏話者。今後ますます多様化していく生き方・働き方に興味があり、ライターとして関わった情報が人々の役に立ってほしいという思いで執筆・編集に取り組んでいる。)