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2017/04/18

猟を学んだあとの起業プランは自由。奈良県天川村で授かる、猟師としての生き方と在り方。

Next Commons lab奥大和

奈良県の中部にある天川村は、村の面積の約4分の1が吉野熊野国立公園に属しています。「水の郷」や「名水百選」などに選ばれ、温泉も有している、自然環境の豊かな村です。
霊峰と呼ばれる「大峯山」、大小の滝と巨岩を流れる清流が美しい「みたらい渓谷」、日本三大弁財天の筆頭とされる「天河大辨財天社」などもあり、年間約65万人が訪れます。
その天川村で生まれ育ったのが、猟師の植村正和さんです。
趣味や地域の活動として狩猟をしていた祖父や父を見て育ち、22歳で狩猟免許を取得して以来、狩猟を続けてきました。現在61歳です。
今回「Next Commnos Lab 奥大和」では、この植村さんから狩猟のイロハを学び、起業する人材を募集します。

ー狩猟は、生きものとの真剣勝負

植村さんは2014年までは天川村役場に勤め、休日に狩猟を行っていましたが、退職後の今は猟師として本格的に活動しています。
2016年9月、食肉処理の営業許可を取得し、自らの資本で食肉加工処理施設「B&D工房」を村内に建てたのです。
狩猟から解体・精肉・販売までを行っています。

「私が免許を取得した頃には父が高齢で猟をやめていたので、地元で有名な狩猟の名人のおじいさんにいろいろなことを教えてもらいました。狩猟の師匠ですね。
初めてシカを仕留めたときには、心臓がドキドキして手が震えたものです」。そう振り返る植村さん。
狩猟には、銃を使う猟と、檻のような箱にエサなどを入れて捕まえる「箱罠」や土の中に埋めておいて足を捕らえる「くくり罠」などの罠猟があります。
植村さんは長年銃を使う猟をしていましたが、獣害が増加しているため、数年前から罠猟も行っているそうです。
「銃では、200〜300m先の獣をねらうんです。双眼鏡や肉眼で確認し、あとはスコープであわせて撃ちます。
シカはよく止まるので撃ちやすいのですが、イノシシは走って逃げる。動いているところを遠くから撃つのは難しいですよ」。
植村さんにとって、狩猟の魅力とは何なのでしょうか。
「祖父も父も狩猟をしていた環境だったので、子どもの頃から銃への興味があったんですよね。
狩猟は、生きものとの真剣勝負です。天川村は雪の多い地域で、山では積雪が1mをこえることもあります。
そんななか汗をかいて山を歩き、苦労して獲ったときの喜びや感動は、やった人にしかわからへんやろうなぁと思います」。

ー正しく処理すれば、野生肉はおいしい!

植村さんの狩猟は、次のように行われます。
「山にも、獣にとっての“国道”や“県道”があるねん。“国道”はシカやイノシシが通る太い道。
猟犬が彼らを追いかけたら、逃げ道としてそこを通るので、私は近くで待ち伏せするんです」。
現在はGPSで猟犬の居場所が分かるので、昔よりも獣の動きが分かりやすいといいます。
「昔は、現在のように優秀な機器が少なかったので、寒い山のなかでひたすら獣を待つことが多かったですよ」。
植村さんは一人で狩猟をするほか、3人くらいのグループで狩猟をすることもあるそうです。
それも、猟犬を使うこともあれば、車で移動したり、獣の足跡をつけていったりと、狩猟の方法はさまざま。
猟犬は、昔15頭も飼っていましたが、今は3頭だそうです。
仕留めた後は、すぐに解体し、半日ほど冷やします。
加工場に持って帰り、皮をはいで、冷蔵庫で4〜5日熟成させます。こうすることで水分がとんで、アミノ酸が増えて旨みが増すのです。
この後、ロース、モモなど、ブロックで分けて冷凍保存します。
きちんと下処理をすれば、イノシシやシカの野生肉がとてもおいしいことを一般の人にも知ってもらいたい、と植村さんは願っています。
「硬い・まずい・臭いといったイメージを持っている人が多いのですが、血抜きなどを迅速かつていねいに行えば、
肉に血がまわらないので、おいしいんです」。

ー狩猟を学んだ後の、起業プランは自由

Next Commons Labで募集しているのは、植村さんのもとで狩猟や解体技術について学ぶ意欲のある人です。
現在、狩猟免許を持っていなくてもかまいません。
「狩猟免許は、講習会を受けて基本的なことを勉強すれば、比較的簡単に取得することができます」と植村さん。
大切なのは、その後の実際の狩猟です。
日本では地域ごとに「猟友会」があり、山や森によって先輩猟師さんが持ち場にしている“猟場”があります。
そこに新米猟師が突然入ることはむずかしいうえ、銃を使う猟の危険性もあります。
大ベテランで地域の信用も得ている植村さんについて山に入ることができれば、狩猟について一から学ぶことができるのです。
「地形や地理、けもの道の見方、エサ場がどこかなどを現場で覚えなくてはいけません。
足跡を見て、個体の大きさや、いつ通ったのかなどを判断できるようになるまでは、経験が必要です」。
狩猟や解体は、3年でどこまでできるようになるものなのでしょうか。
「解体処理は、1年でマスターできます。猟師の経験が一通りあり、血抜きや熟成などの工程を経て“肉”の状態になると分かれば、
部位ごとの活用法などが分かるようになると思いますよ」。
植村さんのもとで狩猟や解体を学んだ後の、起業プランは自由です。
自ら狩猟をし、その肉を使ってジビエレストランや農家民宿などを経営してもいいし、ソーセージなどの加工業を行ってもいいのです。

ーベテラン猟師に学ぶからこそできること

心強いのは、植村さんが食肉加工処理施設を所有していることと、有害鳥獣の駆除も行っていることです。
有害鳥獣の駆除とは、猟期でないときにも農産物などに被害を出す動物の駆除活動を行うこと。
狩猟には猟期があり、奈良県では11月15日から3月15日まで狩猟をすることが認められています。猟期でないときには、狩猟はできないのです。
でも植村さんのように、長年の経験を有していて一定の条件を満たした人だけが、有害鳥獣の駆除活動ができます。
つまり、1年中狩猟ができる植村さんのもとでは、狩猟免許を持っていれば、1年を通して解体を学ぶことができるのです。
植村さんの良質な処理技術は、多方面から高く評価されています。
こうした背景には、厳しい現実として大きな農林業被害があります。
雪でエサが埋もれてしまったシカが木の皮をはいでしまったり、サルの集団が農作物を食い荒らしたりする被害も増えています。
植村さんは、シカを中心に年間50頭ほど獲っているそうです。年間100頭も獲っている人もいるといいます。

ー最後に、植村さんから応募を検討中の方へのメッセージをいただきました。

「田舎に住むことになるので、田舎をどれだけ好きになれるか、狩猟や解体への熱意がどれだけあるかが大切だと思います。
地域に合わせていく柔軟な性格であることも必要かもしれません。
また、解体では血や内臓を見ますから、そういうことにも抵抗のない人が望ましいです。
目的や目標を持ってやりとげる信念のある人は、どんどん知識や技術を身につけるでしょう。
きっと役に立つと思いますよ。意欲のある方、お待ちしています!」。
(文=小久保よしの 写真=都甲ユウタ 編集=赤司研介)

profile

植村正和
1955年10月生まれ。2014年まで奈良県吉野郡天川村役場に勤務。父親の影響で若い頃に狩猟免許を取得、猟期中の休日には、ほとんど出猟、非猟期中は有害鳥獣の駆除に奔走。役場を退職後、長い間に身につけた繊細な獣肉処理の技術を活かすために、2016年9月に、自らの資本で、小さいながら食肉加工処理施設「B&D工房」を天川村に建設。開設当初から、狩猟で培った処理技術を見込まれ、多方面からの獣肉処理の依頼や施設見学者が訪れている。