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2017/01/12

対談:Next Commons Lab奥大和 <後編>

– 企業が地域で挑戦すること 、 次の価値のスタンダード –

Next Commons Lab代表の林篤志氏と、伝統野菜のプロジェクトパートナーである粟の三浦雅之氏を中心に、
パートナーシップを組んでNext Commons Lab奥大和を主宰する、奈良県庁・福野博昭氏と、ロート製薬・笹野正広氏を交えての対談。
Next Commons Labの存在意義や、奥大和で目指す世界について、
それぞれの立場から、またその垣根を超えたところにある想いを語り合いました。

ー もう100人が100のことせないかん時代になった

林_ 笹野さんにお聞きしたいんですけど、ロート製薬は大きな会社で、目薬を大量生産してやってるわけですよね。
そういう企業がこういったプロジェクトの運営側にまわるということも非常に不思議ですが、
在来種・固定種とか伝統野菜のプロジェクトになってくると、ますます大量生産・大量消費の世界とはかけ離れて、
ロートがこれまでやってきたことと真逆のアプローチになると思うんですけど、企業としてどんなことを考えてらっしゃるのか。
あるいはどんな可能性を感じているのか。未知の部分も含めて、ちょっとお聞きしたいなと。

笹野_ 多様性って結構大事だなと思っていて、例えば日本の企業でもお金の価値で切っていくとどんどん人の多様性がなくなるんです。
配置転換とかはしてるけれども、プロフェッショナルをちゃんと育ててないし、企業の中ではある程度同じ軸でしか人を見てない。
だから同じような人しかいないんですよ。ロートの人がみんな「あ、ロートっぽいよね」とか言われたら、もう負けなんですね。
これだけ多様性が必要とされてるのは、企業とか、政治もそうですけど、みんながシンプルな考え方になり過ぎてて、全員一緒なんですよね。
だから攻められたらすぐに負けるし、一斉に右って言われたらすぐこける。だから企業とすれば、ある程度の多様性を求めていかないといけない。
今回のプロジェクトにはちょっと先鋭的なとこもありますけど、そういう刺激があったときに化学反応が起こる可能性があるだろうと思ってます。
今の企業がやれるところが、何かあるはずなんですよ。

福野_ GDPは20年上がってへんでしょ。もう100人が100のことせないかん時代になったっていうのを、みんな気付いてるはずやねん。
それはもう明らかで、マーケットが変わってるわけやから。だからこれはいろんな変わった奴、スーパー変わった人間を育てていくっていうプロジェクトで、
今31歳の林くんがこれを言い出したってことが素晴らしい。だからもう何とか成功するっていうか、絶対できるんちゃうかな思う。
人を育てることに投資する時代が来てるわけよ。スーパーレアな人間を育てる時代が来たと思ってんねん。
それはすごいチャンスやなと。

三浦_ 16年前に農家レストランやるって言ったら、その頃は農家レストランという言葉もなかったですし、100人から反対されましたね。
そういう意味では今、このNext Commons Labっていう仕組みをみんなが理解できる時代になってきてるような気がします。

林_ だから企業が関わってるのはすごくいい。
なんでかっていうと、やっぱり変人がつくってきた時代は、もうそろそろ終わりにしていいんじゃないかなと。
20年前からこれやってるって、変人ですよ。

三浦_ うん、ありがとう(笑)

ー 学びながら本当に化学反応が起きるかもしれない

林_ マイノリティーとマジョリティーって、細分化すればそもそもマイノリティーは存在しないじゃないですか。
大きな枠で見るから、多数派か少数派か、この人なんか変だよねっていう話になってくる。
価値を別々に細分化してしまったら、マイノリティーもくそもないわけですよね。
全ての価値観を許容するっていう社会だと思うんですよ。「そういうのもあっていい」「そういう生き方もあるよね」っていう。
それに対して、現時点での社会において力を持ってる企業がどのように関わってくれるかっていうのがすごく大きなテーマでもあって、
だからロートさんとご一緒させていただいて、どうなるか分からない部分はたくさんあるんですけど、大きな可能性があると思ってやってるんです。

笹野_ こうやって起業していくっていう過程のところと、大企業で大量生産化されたものって、全く違うものなんで、
今回やらせてもらうのって、資本がどうのとかじゃなくて、大企業とはいえ完全に学びのステージですよ。
学びながら本当に化学反応が起きるかもしれないっていうステージやと思うんです。

福野_ ロートさんになんぼ出してもらうか、みたいな話になるわけやけど、それは違う。俺らにないノウハウとかネットワークがあって、プレゼン能力があって、そこは全然違うんやと。
みんな同じ物差ししか許容できないわけよ。でも本来はおのおの違う物差し持ってるから、違うもんは違うっていう価値観を認めるようにならなあかんなっていうのがあって。
だからほんまに優秀なやつが来てくれる可能性あるとしたら、相当に変わった奴やと思う。なかなか今の教育システムの中に入ってないから。
たまにいるでしょ「あいつ、変わってるけど、賢いねんけど、何してるのか分からへん」みたいなの。
そういう奴が来てくれたら、すごく可能性ある。

笹野_ 僕らの世代でも、世の中このままでいくのってすごい不安じゃないですか。
僕が20歳のときから年金制度なんて崩壊するって言い続けてて。かといって、誰も何もしてくれないっていう中で、
行政に頼ったり、自治体に頼ったりじゃなくて、会社もどうなるか分からへんし。
そういった社会情勢も踏まえて、これからの未来をどうやって作っていくか、ほんまに考えるステージです。

林_ 今やらないとやばいですよね。

三浦_ 最後のチャンスだと思っています。

ー 生きることの中に、遊ぶこと、働くこと、学ぶことが混然一体とした世界

福野_ Next Commons Labって、ものすごく分かりやすい形やと思うねん。こうやって並べられた瞬間、みんな一つずつ違ってて、これやなと思った。

三浦_ みんな違っててっていうのはすごく大事ですけども、やっぱり外側からアプローチしていくときに、
福野さんが地元の方と仲良くして付き合ってこられた信頼関係に、このプロジェクト乗っかってると思うんですね。
その上で、地元が一方的にお願いしますでもないし、こっちが地域のためにやったるからみんな協力してというのでもないし。
恋愛と同じで、お互い思い合ってて、なおかつそれぞれ違うから面白いわけやないですか、恋愛するのって。
思い合ってないと長続きしませんしね、ずっといてくれなあかん、じゃなくて、恋愛して仲良くなってたら、自然にずっと一緒にいますもんね。

林_ そうですね。

三浦_ だからそういう環境を、このあまりにも違うプレーヤーたちで、うまくつくっていけるかどうかっていうところが大切なポイントだと思います。
実現できたら、このプロジェクトものすごい成果が出てくると思う。

林_ 三浦さんは個人的に今回のプロジェクトでどんな世界を描いて、何を実現したいっていう、その辺りのイメージをお聞かせいただけますか?

三浦_ 奈良は歴史を振り返ってみても「律令制」や「清酒」、そして「漢方薬」等々新しいものを生み出していく力を持ってると思います。
でもそれは大きくしていくものじゃなくて、ゼロからイチに、要するに種みたいなものをつくっていくのが、奈良の役割だと思ってるんです。
ここで大事なのは、それを育てる人やと思うんですけど、今回まず人は大丈夫だなと。
ロート製薬さんは奈良県が故郷の山田会長の理解もあり地に足つけて取り組まれて、林さんは素晴らしい仕組みを考案されている、
そして福野さんはとても奥大和の方々を愛されている。
今までの失敗をたくさん見てきた中で、そういったところが今回ちょっと違うなと感じていますし、とっても大きな可能性があると思っています。
ではここから先、何を期待してるかっていうと、やっぱり種ってただ持っていてもいけない。いつか蒔かなければいけない。
要するに、地域資源って奈良にはいっぱいあるわけなんですけども、
大事にしましょう、自分たちで囲っときましょうとしていては宝の種の持ち腐れとなります。
今まさに蒔き時やと思ってます。
僕らができることは、受け継がれ守られてきた伝統野菜を広げていって、地域の中でいろんな方々に活用されていくことを共に考えていくことです。
プロジェクトに加わっていく方々がどういう思いでこの種を蒔いていくのか分からないですけども、
伝統野菜に秘められている「七つの風*(風土、風味、風景、風習、風物、風俗、風情)」を広げていくいいきっかけになったらいいなと思っています。
それでNext Commons Labから新しい豊かさ、未来の生き方が見えてきたら、
日本人がかつて海外の方々から称賛された、生きることの中に、遊ぶこと、働くこと、学ぶことが混然一体とした世界が生まれるのではないかと。
そういう世界は、まだ奈良の奥大和の各地に残っていますし、これを広げていけたら面白い。
心の在り方とか、気持ちの在り方とか、生き方みたいなものが、次の価値のスタンダードになって、
さらに地域活性を実現していければ、地方創生の時代に日本の中だけではなくて、世界に求められるものになっていくのではないかと、
そういう大きいところまで期待してます。

words

*七つの風:「風土、風味、風景、風習、風物、風俗、風情」という地域の気候風土に根ざした風を冠した七つの言葉で、地元学などで語られる。①風土はその地域の気候風土を表す。②風味はそれぞれの土地の気候風土で育まれる穀物、伝統野菜、果物、海産物などの食材の地味、地酒や郷土食などの食文化を表す。③風景はその土地で人々が生活を農業を営むことで生まれる景観を表す。④風習は暦や伝統芸能、節句など、四季折々に移りゆく季節の中で自然と寄り添って生きていく為の知恵と営みを表す。⑤風物は各地で受け継がれてきた職人仕事である器、道具、竹細工などの生活工芸を表す。⑥風俗は遊ぶこと、学ぶこと、働くことが混然一体となった生活文化を表す。⑦風情は上記六つの風の中で育まれる人の価値観、気持ちを表す。

profile

林篤志(Next Commons Lab代表)
2009 年に「自由大学」、2011 年に高知県土佐山地域に「土佐山アカデミー」を創業。2015 年、地方への多様な関わり方を生みだすコミュニティ「東北オープンアカデミー」を開始。昨年の夏から遠野の山奥に拠点を持ち、日々全国各地を行き来している。合同会社paramita代表、株式会社NextCommons代表取締役。

三浦雅之(株式会社「粟」代表取締役社長)
1970年生 奈良市在住 京都府舞鶴市出身。1998年より奈良市近郊の中山間地である清澄の里をメインフィールドに奈良県内の在来作物の調査研究、栽培保存に取り組み、大和伝統野菜を中心に年間約120種類の野菜とハーブを栽培。2002年に大和伝統野菜を食材とした農家レストラン清澄の里「粟」、2009年には奈良町に粟ならまち店をオープン。 そして2015年5月より奈良の魅力発信を行う奈良市との官民協働プロジェクト「coto coto」を運営。 株式会社粟、NPO法人清澄の村、五ヶ谷営農協議会を連携協働させた六次産業によるソーシャルビジネス「Project粟」を展開している。

福野博昭(奈良県 地域振興部 移住・交流推進室室長)
1960年生まれ。奈良市出身。奈良県職員。「ならの魅力創造課」「南部東部振興課」などを経て、現在は奈良県地域振興部移住・交流推進室長として、奈良県の南部と東部に広がる自然環境の豊かなエリアである「奥大和」地域の振興に取り組んでいる。他に類を見ないとんがった公務員として、常にあちこち動き回りながら人と人をつないでいる。面白い!と思ったことは、すぐに実現させるスピードとプロデュース力を発揮。

笹野正広(ロート製薬株式会社)
1976年生まれ。大阪市平野区出身。1998年ロート製薬株式会社入社。主に商品企画~メディア、プロモーション業務のマーケティング分野に長年従事。2014年から新規事業を担当し、奈良県宇陀市で子会社で有機農法による野菜の生産や加工品開発を行う農業法人を設立。地方の活性化はこれからの日本の未来において非常に大きな課題と考え、2015年奈良県と包括協定締結。民間企業だけでは到達できなかった新しい産業や未来づくりを行政と一緒に取り組み始めている。2015年6月からロート製薬で食と農の事業に取り組む、アグリファーム事業部所属。