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2017/01/12

対談:Next Commons Lab奥大和 <前編>

– 新しい社会の在り方 、 種を受け継ぐこと –

Next Commons Lab代表の林篤志氏と、伝統野菜のプロジェクトパートナーである粟の三浦雅之氏を中心に、
パートナーシップを組んでNext Commons Lab奥大和を主宰する、奈良県庁・福野博昭氏と、ロート製薬・笹野正広氏を交えての対談。
Next Commons Labの存在意義や、奥大和で目指す世界について、
それぞれの立場から、またその垣根を超えたところにある想いを語り合いました。

ー いろんな生き方や、いろんな価値観があっていい

福野_ 三浦さんの粟の取り組みっていうのは、Next Comons Labにぴったり合うてるような感じがした。
伊川健一くんもそうやねんけど、この世界が分かりやすいイメージ。遠野でやろうとしていることにも共通してる。

林_ 社会にとっては、次の変わり目みたいなのが必要なんじゃないかと感じていて、まずその装置を作れればいいかなと思ってるんですよ。
それをいろんな人たちに、今回で言うとロート製薬だったり、奈良県庁だったり、宇陀市にその仕組みを使ってもらう。
使ってもらうんだけど、今の段階では一緒に作っていくっていうことですよね。

笹野_ 企業にしても自治体にしても、それぞれだけではやりきれないことをやろうとしていて、
地域で新しいことが起こったときに化学反応が起きる、というのはまさに僕らも狙ってるところ。
ただ企業といってもお金をかけたからってできるもんじゃなくて、土地にあるものを大切にしないとできないことやと思う。

林_ 僕は1985年生まれで、景気がいいっていう世の中を知らないんですよ。
一方、不自由な思いもあんまりしたことない。もちろん個人差はあるだろうけど、物はあふれてるし、いろんなサービスもあるし、困ることってないです。
だけどもなんか行き詰まり感というか、できあがった仕組みの上で先に進まない感じっていうのはあるんですよね。
それが種(たね)の話とつながっているなと思うことがあるんですが。
この在来種固定種っていわれる伝統野菜が、世の中からどんどん消えていった原因って、
大量生産・大量消費で効率をいかに上げていくかっていう大きなシステムの論理の中で生き延びれなくなったということが大きい。
一方でF1っていう種*が作られて、例えば雑種強勢で長期輸送にも向いているとか…基本的には一代交配だから、いわゆる優勢形質のものしか出ないですからね。
形も大きさもそろって、規格にかちっと合わせて、ベルトコンベヤー式にやっていくという方式が、ありとあらゆる分野に適用されてきたわけです。

三浦_ 急にタネの専門家みたいなこと言い始めたね(笑)

林_ 働き方もそうですよね。企業に入ってサラリーマンとして流れに沿って働くっていうことが、
上り調子のときには素晴らしい効力があったわけなんですが、それが今ガタッと崩れてしまった。
これからどうやったら生き延びていけるだろうかっていう、考え方やマインドを変えなきゃいけないタイミングだと思うんです。
それでNext Commons Labがやりたいことっていうのは、やっぱり多様性の担保ですよね。
いろんな生き方や、いろんな価値観があっていいんだっていうことを、そのベルトコンベヤーから外れてやれるっていう時代にしていかなきゃいけない。
それは種の分野と共通する部分があると思います。
結局大きなシステムの中で考えるから、小さい、マイノリティな、使い勝手の悪いものは、もうなくしていこうという論理が働いたんだけど、
全体が細分化されることによって残っていくし、そこが実は豊かだと思うんです。
それが食と人間の暮しや働き方とが直結するっていうことだと思うので、
今回、種のプロジェクトを先駆的にやってらっしゃる三浦さんとコラボできるのは、Next Commons Labとしても象徴的だなと、勝手ながら思っています。

三浦_ ありがとうございます。

ー 伝統野菜を食文化として復活させることで、コミュニティが復活していく

林_ 何よりも食というのは、例えば僕の性格とか、日々の行動とか、これからの人生とか、
実は見えないところですごく影響を与えているんじゃないかなと思っていて。
だから、日本の北から南まで、本当に豊かにある地域資源の象徴として、何十世代も引き継がれてきた在来種固定種っていうものを、
また今の世の中に戻していくっていう作業をやっていけることを一緒に楽しみたい。
それに対して興味を持っているロート製薬っていう大手企業との組み合わせは、また非常に面白いなと思っていて、
何が起きるか分からないんだけど、可能性は十分にあると思っています。
ところで三浦さんはなぜ在来種固定種、伝統野菜に関わるプロジェクトをやってらっしゃるのでしょうか?
ただ野菜が好きで、農業をやって、おいしいものを出してっていう以上の何かがあるからこそ、こういうことをやってるんじゃないかなって。
推測ですけど。その点いろいろお聞きしたいと思います。

三浦_ ありがとうございます。もともと私は民間の福祉関連の研究機関で働いていて、家内は総合病院で看護師をやっていました。
つまり、ふたりとも医療と福祉っていう、今とは全く違う仕事だったんですけれども、
結果的に農家レストランをはじめることで、食と農業という分野に携わることになりました。
その大きな理由は、先ほど林さんがおっしゃったこととすごく重なるんです。
私は林さんより年齢は10歳以上ですが、自分たちもバブルで何か恩恵を受けたという感覚はあんまりなくて、
でも貧しいかといったら、物もインフラも整ってるし、ある意味ものすごく豊か。
それを当たり前と思ってしまうのは、何かおかしいんじゃないかっていうことを考えながらずっと生きてきたんですね。
そんな中で皆さん幸せ感があるかといったら、そうでもない。
医療、福祉に費やす国家予算は毎年1兆円ずつ増えていくっていうデータもありますし、実際に皆さん老後に不安を持ってらっしゃったりとか、
そのためにお金を稼がなくちゃいけないというような、幸せに対してすごく守りの人生をやっている方が多いなと。
なぜこうなってるかということをいろいろ精査していくと、地域で支え合ってたコミュニティがなくなっていたりとか、
自分が当たり前のように生涯現役で生きていくという、その生涯現役率が低くなってたりとか。
今で言う健康寿命ですね。こういったものが狂ってきてるから、代わりにセーフティーネットを求めてしまっているという見解にたどり着いて。
その中で自分達らしいアプローチを探しているときに、いろいろな出会いがあって、伝統野菜に関心を持つことになったのですが、
興味深いことに伝統野菜が残ってる地域には、伝統芸能や地域の結びつきが残ってたり、
さらに関連性を調べていくと生物多様性が残っていることも分かってきたんです。
ならば、伝統野菜を食文化として復活させることで、またコミュニティが復活していくんじゃないかと。
その結果、お金を持つという豊かさだけではない、もっと温かいつながりや食文化の豊かさといったものが、もっともっと復活していくといい。
そのロールモデルをつくろうと考えて、この事業を16年前にはじめたんです。

林_ 16年やってるんですね。

三浦_ そうです。その前に伝統野菜の調査を始めていたので、構想からちょうど20年。

林_ すごいですね。どうですか、20年やって。
僕も種に携わる仕事をやっていた時期があるんですけど、まあ奥が深い。
伝統野菜、在来種・固定種みたいなものを引き継ぐって、そもそもは当たり前のことだったはずなんだけど、
その当たり前がなくなってしまった世の中でこういう活動されていて、この20年の中で変わってきたこととか、
一方でぶち当たってる壁みたいなものはあったりしますか。

三浦_ 20年前というのは、伝統野菜ってそんなに注目されてなかったんです。
それに農業というのも私達の命を支えてくださっているにもかかわらず嫌な仕事にあげられていた。汚いとかね、きついとか、危険とか。

林_ たしかに、20年前はそうでした。

三浦_ ところが今、農業ってより豊かな人生の象徴のように思われてきてますよね。この価値観のシフトが一番大きな変化だと思うんです。
同時に社会情勢を見ると、もっともっとサステイナブルなシステムを考えなければいけない状況があって、
その社会情勢と人間の欲求、例えば自然と寄り添っていきたいとか、自分らしく生きたいという流れが、重なってきてると思います。
それがここ数年顕著になっていますね。
その価値観の変化という大きな潮流の中で、もうほっといてもどんどんそういった問題は解決するのかなと思っていたら、実はそうではなかった。
田舎に移住したい方はたくさんいらっしゃいますし、そういう人たちがどんどん増えてくるのかと思ったら、
実際はそこまでではなかったなっていうのが今の課題ですよね。

林_ なるほど。

ー もともとあった核の部分を取り戻す / 戻りながらアップデートしていく

三浦_ そこに今回のNext Commons Labのような仕組みが生まれた。
今まで移住促進とか、雇用創出とか、そういったものがばらばらに行われてたんですけども、
関連性を考えて、一元的にアプローチしていくという、この時代が必要として、求められているプロジェクトが始まった。
それを奈良県で初めてスタートするのに立ち会える、わくわく感っていうのがすごくあります。
それは今まで福野さんのように奈良県の方が、地域の抱える問題に対して大きな見地から個々でアプローチされてきた下地があって。
今までのアプローチだけでは限界がある、じゃあどうしようかっていうところで、ロートさんの奈良とのご縁であったり、
林さんが遠野で先行事例をつくって、いろんな方々をうまく整理していくこの仕組みを持ってこられたタイミングが、
自然に重なったんだなというように思います。

林_ 在来種固定種が残ってる地域って、今までクローズドに、閉鎖して守ってきたっていう背景があるんですけど、
つまり地縁血縁というその閉鎖型の中で守り切れなくなってきたっていうのが、今の現状だと思うんですね。
それで、Next Commons Labのアプローチがそうなんですが、地縁血縁ってもうどうにもならないから完全に解放してしまおうと。
解放して、その土地の人間ではない、ビジョンとスキルを持った人たちを受け入れて、
かつてその地域が持っていたアイデンティティーみたいなものを、形を少しずつ変えてでも現代に戻していこうっていう、
もともとあった核の部分を取り戻すっていう作業だと思うんですよ。
種の世界においても、そういう感覚はありますか?

三浦_ そもそも種って固定されていて、その地域だけのものっていう考えが、伝統野菜の「伝統」という言葉の中にあると思うんですけど、
じゃあ伝統野菜ってその地域にずっと昔からあったものかっていったらそうではないんですよね。

林_ そうですね。

三浦_ 人や物が往来していくご縁の中で何かの種がもたらされて、それがその地域の気候風土に適応して、
おいしい食べ方ができてそれが食文化となり、結果的に残ったものが伝統野菜。
そう考えると、伝統というのは変えないものではなくて、実は常に生きて変化していく、不易流行という側面があると思うんです。
奈良には、「まれびと信仰」という面白い言葉があるんですけれども、外から来る方に対して、
新しい知見や新しい情報を持っているということで、大切にしようという考え方があったんですね。
それと同じで今回のプロジェクトも地元をないがしろにするという意味ではなく、地域が本来持っていた機能を活性していくために、外からの知見を融合していく、
そういうことも今回のプロジェクトと、伝統野菜をつなげていく考え方に、共通しているものがあるんじゃないかと思っています。

林_ 外から人を招き入れる側の意識変革みたいなことは、すごく重要だと感じます。
その意識変革も、どこまでできるかっていう話なんですけど、例えば仕組みをうまく導入することによって、
いわゆるまれびとを歓迎する風潮というか、受け皿をつくれるようになると、すごく変わってくるなっていう感じはありますね。
永住定住ではなくて、その人のその価値観が生きる土地やタイミングが絶対あるし、その人のスキルを必要とする瞬間や場はあると思うので、
そういったものを拠り所として、人がもっと流動的にグルグル回っていくような社会をこれからつくっていかなきゃいけないんじゃないかなと。
この100年ぐらいでみんな凝り固まってしまって、ほとんどサラリーマンになってしまったし、ほとんど移動をしなくなってしまったんですよね。
そこら辺はやっぱり戻っていく感じです。戻りながらアップデートしていくような。
人間そのものの暮らしの在り方っていうのを、考えなきゃいけないと思っています。

words

*F1種:Filial 1 hybridは、直訳すれば”1世代交配”となり、一代雑種やハイブリッド種とも呼ばれる。農作物では、異なる性質の親株を掛け合わせることで、一世代に限り収量が安定し形のそろった作物ができるという性質を持つ(メンデルの第一法則「優劣の法則」)。収量や食味の改良なども進めやすい一方で、二世代目以降は形質が全く揃わないため、種を採り受け継いで作り続けることができない。大量流通・大量消費の市場に合わせ、現在日本で流通している農作物の種の多くはF1種となっている。

profile

林篤志(Next Commons Lab代表)
2009 年に「自由大学」、2011 年に高知県土佐山地域に「土佐山アカデミー」を創業。2015 年、地方への多様な関わり方を生みだすコミュニティ「東北オープンアカデミー」を開始。昨年の夏から遠野の山奥に拠点を持ち、日々全国各地を行き来している。合同会社paramita代表、株式会社NextCommons代表取締役。

三浦雅之(株式会社「粟」代表取締役社長)
1970年生 奈良市在住 京都府舞鶴市出身。1998年より奈良市近郊の中山間地である清澄の里をメインフィールドに奈良県内の在来作物の調査研究、栽培保存に取り組み、大和伝統野菜を中心に年間約120種類の野菜とハーブを栽培。2002年に大和伝統野菜を食材とした農家レストラン清澄の里「粟」、2009年には奈良町に粟ならまち店をオープン。 そして2015年5月より奈良の魅力発信を行う奈良市との官民協働プロジェクト「coto coto」を運営。 株式会社粟、NPO法人清澄の村、五ヶ谷営農協議会を連携協働させた六次産業によるソーシャルビジネス「Project粟」を展開している。

福野博昭(奈良県 地域振興部 移住・交流推進室室長)
1960年生まれ。奈良市出身。奈良県職員。「ならの魅力創造課」「南部東部振興課」などを経て、現在は奈良県地域振興部移住・交流推進室長として、奈良県の南部と東部に広がる自然環境の豊かなエリアである「奥大和」地域の振興に取り組んでいる。他に類を見ないとんがった公務員として、常にあちこち動き回りながら人と人をつないでいる。面白い!と思ったことは、すぐに実現させるスピードとプロデュース力を発揮。

笹野正広(ロート製薬株式会社)
1976年生まれ。大阪市平野区出身。1998年ロート製薬株式会社入社。主に商品企画~メディア、プロモーション業務のマーケティング分野に長年従事。2014年から新規事業を担当し、奈良県宇陀市で子会社で有機農法による野菜の生産や加工品開発を行う農業法人を設立。地方の活性化はこれからの日本の未来において非常に大きな課題と考え、2015年奈良県と包括協定締結。民間企業だけでは到達できなかった新しい産業や未来づくりを行政と一緒に取り組み始めている。2015年6月からロート製薬で食と農の事業に取り組む、アグリファーム事業部所属。